理事長室

第3弾:隣国の事情  「中国特異説」~王朝が続く謎~

  • 2020.7.13
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 秦の始皇帝が中国全土を統一してから以降、群雄割拠する時代もありますが、ほとんどは全土が統一王朝の支配下にあるという歴史を中国は繰り返してきました。これは世界史から見れば、かなり異質です。例えば、ヨーロッパにおいては欧州全土を切り従えたローマ帝国が崩壊した後、後継の帝国を名乗る強国は生まれたものの、これ以上の版図を持つ巨大帝国は出現しませんでした。
 ではなぜ、中国では統一王朝が常態化するのでしょうか。中国文明、中華思想、漢民族の存在も大きな要因には違いないと思います。ただ、異民族が政権を奪取した元や清でも、当然のように中国化し、歴代王朝と変わらない存在になります。この不思議さは証明できません。
 私は儒教をベースとした官僚制度の強固さが大きく作用していると考えています。儒教は2500年前の孔子を起源とする学問であり、中国人にとって血肉化しています。どうしたら世の中が収まるか。そのノウハウがぎっしり詰まった士大夫層のバイブルであり、この儒教の教えを頭の中に詰め込んだ秀才が科挙制度を通って歴代王朝の官僚になるのです。ポイントは儒教が主君に反逆することは「不忠」。官僚が一番やってはいけないことと教えている点です。
 武力で覇権を手に入れた初代皇帝にとって、一番欲しいもの何でしょうか。贅沢三昧、国中の財宝、おいしいもの、珍しいもの、美女でしょうか。欲しいものは何でも手に入るのです。結局、権力者は自分の地位を脅かす存在を無くすことに一番腐心しています。猜疑心の塊のような皇帝に殺された忠臣や功臣は星の数ほどいます。能力の高い部下は危険な存在になります。皇帝という位置さえつかめば、後に望むのはひたすら安定なのです。
 ただ、厳しい現実があります。巨大な国になるほど国力は大きくなりますが、反対に国を治める治世は難しくなってきます。政治は常に流動的で不確定です。賢帝でいるためには、皇帝自身がその能力以上にたゆまない努力と忍耐が必要です。これを優秀な官僚に預けて、それで収まるなら皇帝は楽です。また、皇位を継承する子や孫が、多少、出来が悪くても余程の暴君でなければ、安定した治世が期待できます。皇帝にとってこんな便利なシステムはなく、歴代王朝が官僚制を採用し続けるのもうなずけます。国が学校を作り官僚教育をする必要はないのです。知識階級である士大夫層は自ら子弟に儒教を学ばせ、優秀な官僚の卵を絶え間なく輩出し続けるからです。
 現代中国は革命により共産国家となりましたが、意外と官僚制度とも相性がいいようです。もともと共産主義はプロレタリア独裁です。官僚は権力者に忖度をしますが、国家に反逆しません。そういう意味では現在の中国では歴代王朝の伝統が続いていると見た方が判り易いと思います。士大夫層が共産党に変わり、科挙制度が共産党員試験に変わり、習近平主席を皇帝と置き換えれば、中国で起こっていることは大体説明がつきます。

 最近、コロナウィルスのニュースばかり聞いているような気がしますが、この出来事の背景にも中国の特異性が垣間見えます。ウィルス対策で武漢封鎖などの強権を発動したことも、初動段階で、大したことはないと対策を怠ったことも、いかにも中国らしい。
 権力者が絶対権力をふるうことができるのは、権力者の意志を忠実に実現する官僚が存在しているからです。権力に歯向えば国家反逆で死刑もありうるぞ、という体制の中でこそ強権は強力に実行されます。一方、問題を表ざたにすることを嫌うのも官僚の特性です。都合の悪い事実はできればなかったことにしたい。問題が顕在化すれば、対応が必要になり、成果が出なければ処分の対象になります。何も起こらないのが一番いいと思っている上司に、問題があると告げたくない部下がいて、忖度が発生し、対策は後手に回ります。この構造は日本の霞が関でも同じです。
 イギリスがEUの離脱問題で、アメリカがトランプ現象で国内に深刻な亀裂が走っています。これは中国ではありえないことです。重要方針は共産党が決めることだからです。決めた後は、その施策を実行する官僚とそれに従う民衆が居るだけです。もちろん共産党内ではし烈な権力闘争はあっているに違いありません。ただ、党というコップの中の話です。断っておきたいのですが、私は官僚制度を否定しているわけではありません。むしろ有効に使うべきだと思っています。中国が文化大革命の混迷から脱し、世界の工場となり、アメリカと覇権を争うまでに経済成長したことも、今回の新コロナウィルスの封じ込めに成功したことも、実務面での中国官僚の優秀さが一因であり、政策のベクトルが定まれば、目標を達成する実務能力は極めて高いと思います。
 その一方で、官僚は絶対に間違いを起こさないことになっています。なぜなら間違いを起こしても、それを認めないからです。ついでに言うと、マスコミが大嫌いです。なぜならミスをしただろうと書き立てるからです。だから相いれません。だから、香港自由化問題は絶対に引かないし、台湾問題も一つの中国の主張を絶対に曲げません。