理事長室

資本主義と突然変異

  • 2021.3.29
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 生物界の突然変異と同じ様に風景が一変してしまうようなことが、人間社会でも起こります。近代になり、資本主義も突然変異のように発生し、これまでの世界の社会構造を大きく変えました。
 事業をするためには資金を集める必要があります。どこから調達してくるのか。古今東西「金貸業」はかなり以前から、職業として存在していたようです。しかし不特定多数の投資家から資金を集める「株式会社」のような仕組みは簡単には生まれませんでした。資本主義のメインプレイヤーである株式会社の起源は東インド会社と言われていますが、初期の状況は投資というより投機です。ドル箱のインドとの交易は中継地の中東がイスラム勢力に抑えられていましたので、思うようにいかず、アフリカ南端の喜望峰を回る航路を確立する必要がありました。果断に冒険したと言えば聞こえはいいですが、奴隷貿易やアヘン販売など相当阿漕なこともやっています。ただ長い年月で変異を繰り返し、信用に基づく現代の繁栄の基礎となる制度になるまでに発展しました。
 日本資本主義の父と言われる渋沢栄一を主人公にNHK大河ドラマが始まりました。彼もまた突然変異のように出現した人物です。「論語と算盤」の中で、道徳と企業経営は共存しうると説きました。西洋の資本主義に近江商人の「三方よし」や石田梅岩など日本的なエッセンスが入ったもので、企業経営者の品格を引き上げた功労者だと思います。資本主義には貧富の差を増幅する宿痾というべき副作用があります。渋沢はこのことも十分に認識し、500を超える日本を代表する企業を創業すると同時に日本で初めて社会福祉事業も立ち上げています。
 しかし彼のような経営者は極めて少数であり、基本的には金儲けに徹する実業家が成功を収め、世の中を牛耳ることになります。20世紀初頭、世界中の国々で、この貧富の差はさらに拡大し、労働者と経営者の間には修復不可能な断絶を生じていました。このような状況にマルクスは生産手段の私有化が貧富の差を作る根源であり、最終的な対処法としてすべての財産を国有化する共産主義国家を提唱しました。そしてそれに共感するメンバーが約100年前にロシア革命を起こします。皇帝の首が飛ぶと、資本主義国家は驚愕し、この突然変異のような思想を伝染病のように恐れました。米ソ冷戦がはじまりです。
 貧富の差は一面でハングリー精神のような「ばね」を育てます。貧富の差を嫌うあまり、マルクス主義者はこの効果を過少評価していたと思います。ばねを失ったソビエトはやがて経済的に失速していきます。ベルリンの壁が崩壊、結局ソ連はロシアに戻りました。共産主義からの脅威が去った資本主義は恒久的に安泰になると思われました。しかし、今思えば、冷戦は資本主義の暴走を止めるブレーキ役を果たしていたようです。サッチャーやレーガンが主導した新自由主義の時代に冷戦を終結された影響もあると思います。「極端な福祉政策は社会の活力を減退させ、貧富の差は必要悪。」という風潮の中、労働運動は求心力を失い、貧富の差を縮めようとする動きは緩慢になっていきました。逆に冷戦後の世界経済はグローバル化していきます。そして企業は自社の利潤を極限まで追求し、株主ファーストで短期的な利益を求める経営者が支持されました。結局、勝ち組だった資本主義諸国の貧富の差はさらに広がり、世界中にトランプ現象を起こす引き金となりました。
 一方で共産主義の変異種である中国が台頭し、現在、米中が鋭く対立し、予断を許さない緊張状態が生じつつあります。結局100年の時を経て、振り出しに戻った感じです。