理事長室

田舎者の系譜(九州編)

  • 2021.1.25
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 アニメの登場人物には当初からキャラクター付けがしており、これに忠実に物語が進行します。例えば、おしとやかなサザエさん、優しいジャイアンでは視聴者の不満がたまります。視聴者がやってくれるだろうという期待する行動をとることで、作品との一体感が生まれるのです。キャラクターの性格比較が判りやすい例として戦隊ヒーローものがあります。チーム5人が協力して敵を倒すストーリーで、45年間ほぼ毎年番組名は変わるのですが、基本的メンツ構成は5人で性格はほぼ変わらずに踏襲しています。
 初代の秘密戦隊ゴレンジャーを例にご紹介しましょう。原作者はサイボーグ007、仮面ライダーなどで有名な漫画家の石ノ森章太郎、この業界ではパイオニアの大御所です。

  1. 赤レンジャー:海城剛。チームリーダー、格闘能力高く、優れた決断力と統率力を併せ持つ義理人情に厚い熱血漢。サッカーのエースストライカーだったという設定。イケメンだった誠直也が演じましたが、のちに刑事がはまり役の役者として大成します。
  2. 青レンジャー:新命明。サブリーダー、クールな二枚目だが、心優しく仲間想い。時に赤レンジャーと意見が対立することもある。メカに強くカーレーサーを目指した経歴。宮内洋は他番組ですでに主役を張っており、サブはいやだと固辞したらしいが、どうしても気障が板についた役者が欲しいと原作者の石ノ森章太郎から口説かれたようです。このポジションはシャイなイケメンがやることが多く、若いお母さんには主役以上に人気が出ることもありました。
  3. 黄レンジャー:大岩大太。怪力で柔道の達人、肉弾戦が得意の猪突猛進タイプ。カレー大好きの食いしん坊で肥満体型の三枚目。性格は純朴で子供好き、なぞなぞが苦手、九州弁丸出しで皆から笑われ、チームを和ませる。役者の畠山麦が東映の映画出演が決まり、一時、熊野大五郎が二代目黄レンジャーとなりますが、基本的な性格付けは変わらず、二代目が殉死して復帰するというストーリーになりました。
  4. 桃レンジャー:ペギー松山。唯一の女性枠である。スイス人と日本人のハーフ。化学系に強く、武器開発・爆弾処理のスペシャリストで、空手の有段者でもある。変装が得意でエレガントでおしゃれをする女の子。
  5. 緑レンジャー:明日香健二。チーム最年少で、マスコット的なキャラクターで動物や自然をこよなく愛する。若さゆえに血気盛んな行動が多く、新命からは「坊や」と呼ばれる。

 余計なこともたくさん書いてしまいましたが、ここで注目していただきたいのは黄レンジャーです。イーグルという秘密防御組織が黒十字軍という悪の結社の襲撃で壊滅状態となり、全国から生き残りが選抜されたという設定で、メンバーは全国各支部から集まるのですが、九州支部の生き残りが黄レンジャーです。そして襲撃があった九州支部は熊本にありました。熊本と田舎者の関係性がここから生まれたと言うつもりはありません。このシリーズが始まったのば1975年ですが、当時から、この設定が受け入れやすい環境がすでにあったのだと思います。
 この番組に影響を与えたのは、先行する作品は黄レンジャーの必殺技を見ると明らかです。メガトン頭突きで決めるという笑える必殺技ですが、柔道の巴投げを繰り返すという「阿蘇山山車」、肩に担いで放り上げる「阿蘇山大噴火」さらに頭突きで落ちてきた相手をサバ折で失神させるのが「桜島大噴火」というものです。これは「柔道一直線(1969~71放映)」、車周作の必殺技である「地獄車」、大豪寺虎雄の「大噴火投げ」の完全なパクリです。
 柔道一直線の原作者は梶原一騎で、スポ根アニメというジャンルを切り開きました。東京生まれですが、父方のルーツは阿蘇郡高森町です。彼の世界観の中には、空手家の大山倍達や東映任侠映画の高倉健がいます。軟弱化する日本の男へのアンチテーゼだったようで、古武士の面影を残す九州男児を純化して物語に登場させ、昭和の高度成長期の世相を彩りました。
 ただ、大岩大太のキャラクターは、同じく梶原の原作の大ヒットアニメ「巨人の星」の左門豊作の存在が大きいと思います。左門は主人公星飛雄馬の生涯のライバルになるスラッガーですが、強烈だったのは両親を亡くし、幼い弟妹を養うためのハングリー精神と極貧生活で、荒れた耕地で鍬を振る姿は、70年代の日本にはありえない姿ですが、五木の子守歌の地元の熊本には、まだ残っていそうな雰囲気がありました。ずんぐりむっくりした体型は、そのまま熊本人のイメージを類型化させてしまったようです。
 もともと九州男児と言われるイメージには薩摩隼人や肥後菊池一族の古武士をベースに、宮本武蔵、丸目蔵人などの剣客、肥前松浦党の海賊、北九州遠賀川の川筋もの、筑豊、三池の鉱夫、小倉祇園太鼓、博多山笠の男衆など気性の荒い男の群れが折り重なっており、隆起した二の腕や厚い胸を連想していたのですが、左門豊作の登場とエース西郷さんの肥薩連合により、気が優しくて、力持ち、ぽっちゃり体系というイメージが強力になり、他の九州男児のイメージを駆逐した感があります。
 いずれにしても熊本県、鹿児島県を中心とした「田舎者の九州」が全国に定着しているのは間違いないようです。