理事長室

六八戦争

  • 2021.3.15
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 六八と聞いて、永六輔、中村八大さんを連想するのは、すでに後期高齢者の方でしょうか。六八コンビで作った「上を向いて歩こう」が大ヒット曲になり、歌手の坂本九を入れて、六八九と言われました。半世紀前の出来事です。その当時、子供だった私は、六八と聞いて、虫の足の本数のことを思い浮かべていました。
 「古生代、虫の世界では8本足だったのが、2本の足が二枚の羽根に変異した種が現れ、八本足と六本足の虫が地上の覇権を争ったのを六八戦争という。」もちろん全くの出鱈目で、私の妄想ですが、子供のころはそうに違いないと信じていました。流石に大きくなってこれは無理だなと諦めましたが、筋立てとしては良くできているので、退職して暇になったら、童話にでもしようかと思っています。以下があらすじです。
 昔々、草を作った植物の神様と虫を作った動物の神様の兄弟がいました。しかし兄弟仲は良くありません。特に植物の神様は怒っていました。折角作った草が虫に食べられて絶滅しそうになって、何とかしてくれと動物の神様に頼むのですが、何もしてくれないからです。しかたなく葉皮を固くしたり、とげを生やしたりして防戦しますが、なかなか上手くいきません。そこで虫たちを仲間割れさせようと一計を考えます。豪華な美しい花を作り、そこに甘い蜜を置いたのです。作戦は成功しました。蜜を争って、虫たちが争いを始めたのです。特に昆虫族と蜘蛛族は一族を挙げての全面戦争になりますが、勢力が拮抗して膠着状態に陥ります。状況を打開したい昆虫族の蝶と甲虫は植物の神様に使いに行きます。「私どもは草花を傷つけようとは思ってもいません。蜜を分けていただければそれで結構です。」「そうかそれなら、手助けしてやろう。」そう言って植物の神様は虫たちの二本の足を羽根に変えてやりました。空中からの攻撃は圧倒的で、形勢は一気に六本足軍のほうに傾きます。今度は、八本足軍の蜘蛛と蠍が動物の神様の所に行きます。「もうだめです。何とかお願いします。」「小癪な、それなら、これをやろう。」動物の神様はしっぽの先に毒針を付けてやりました。しかし、傾いた形勢を挽回できず、八本足軍の拠点は次々に陥落、蟹は海に、蠍は砂漠に、そして蜘蛛は地中に落ち延びました。地上は昆虫たちの楽園となり、花々を優雅に舞う蝶のように、末永く楽しく暮らしたそうな。めでたし、めでたし。
 一方、落延びた八本足族は苦労の連続でした。特に地中に逃げた蜘蛛は凄惨でした。土の中は真っ暗な世界で、食べ物もありません。土をなめて飢えをしのぎ、小さな木の根を探りあて、汁を啜って渇きをしのぎました。恨みは怨念になり、腹の中に溜まっていきます。そして体液が粘質系の唾液に変質します。蜘蛛には一筋の光が見えていました。その粘質の唾液で罠を仕掛け、空中を我が者顔で飛んでいる奴らに復讐するシナリオです。「この恨み晴らさずにおられようか。フッフッフ。」蜘蛛の不気味な笑い声はまだ地上には聞こえません。(続編に続く・・・)

 毒を持つ生き物は結構たくさんいます。ただ、共通しているのは、もともとは臆病で、けんかに弱く、生存競争では負け組に属している生き物です。現在、地上でもっとも繁栄している昆虫にしても、ほ乳類にしても毒を持った種はいません。これは進化の歴史の中で、凄惨な過去を経験していない裏返しだと思います。

 昆虫の中で子供たちに最も人気が高いのが甲虫(カブトムシ)です。あの立派なT字型の角はメスを引き寄せるファッションだと思っていたのですが、意外と実践的な武器であると知って驚きました。甲虫の主戦場は木の表面です。蜜が出る餌場で、一番いい場所に陣取れるのが最強者の特権です。虫の世界で甲虫は最大級ですから、相手は同じ甲虫か大型のクワガタぐらいでしょう。得意技はすくい投げです。角を相手の腹の下に滑り込ませ、跳ね上げて邪魔者を木の上から排除します。決め手になるのは、六本の足の踏ん張り力と角の長さです。要はテコの原理で、テコが長いほど引き剥がす力も強くなります。ただ「邪魔だから、どけ」と言っているだけで、はじけ飛ばされた相手も羽根を持っていますから、地面に打ち付けられてけがをすることもないでしょう。相手の命を奪ったり、傷つけるような考えは根本的にありません。何とも平和的な方法で紛争を解決しているのです。
 甲虫は何億年も同じような生態を持続してきました。比較して人類は、わずか数十万年の歴史しか持っていません。この短時間に高度な文明を築き上げました。進化の頂点に立っているのは霊長類である現人類(ホモサピエンス)に間違いありません。しかし同時に、地球に暮らす全人類を何十回も殺せる量の核兵器を持つに至りました。どちらが賢い生き物かと問われて、胸を張って人類だという自信はありません。