理事長室

マジ、ヤバイ

  • 2021.4.5
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 言葉にも突然変異があります。「マジ、ヤバイ」は若者言葉ですが、意味することは昭和の時代とは180度変わって、素晴らしい、素敵だというような肯定的なニュアンスを意味します。どうして突然変異したのかはよくわかりません。使っている若者はノリでしゃべっているだけなので、論理的な答えを探すこと自体が無意味かもしれませんが、一応思考してみました。
 「マジ」は「真面目」の略語でしょうが、後ろの言葉を強調する役割があります。最も古くは江戸時代1761年に発行された「にゃんの事だ」という洒落本の中に使われている例があるそうです。洒落本の舞台である色里の遊女や客の会話を面白おかしく書いてある小説で、当時、色里のことは遊女を猫に例え、猫屋敷とも言われていたそうです。ただ、ここが起源で広がったとはどうも思えません。たぶん一旦使われなかったものが、最近になって、似たような環境の中で復活したと推察します。 
 これには発音から来る影響も大きいと推察します。驚いた時に発する母音の一番手が「あ!」で、二番手が「お!」です。これに子音を重ねると微妙はニュアンスが出てきます。赤ん坊が最初に発する子音はMです。これに母音Aをくっつけると「ママ」「マンマ」になり、赤ちゃんが一番欲しいものです。ちなみに母音Oをくっつけると「モー」になり、非難するニュアンスが出てきますが、使い出すのは三歳児くらいからでしょう。素直に驚きを表現するには「ま」がぴったりします。
 遊郭でのたわいのない会話には、面白おかしく盛ったつくり話で盛り上がったのでしょう。その時「マジ」という返し言葉はフィイトしたのだと思います。同じように少女たちの会話の中で偶発的に出た「マジ」という言葉が感性に合うと受け入れられ、同世代に瞬く間に広がったと考えるのです。
 一方、「ヤバイ」の起源は諸説あるようですが、これも江戸時代にまで遡ります。面白い説が矢場(射的場)の裏で売春が行われていて、それを取り締まりの役人に見つかりそうになって危ないというもの。云わば隠語の一種ですね。これがその道の筋に広がったというのです。
 仲間内だけの言葉で、反社会的なことや、覗いてみたくなるようなわくわく感が内包されている「ヤバイ」という言葉のDNAが若者の心情にフィイトしたとすると、「カッコいい」に意味が突然変異したのも理解できるような気がします。江戸時代と現代と大きな隔たりはあるものの、「ヤバイ」と言っている人の置かれている社会環境や心理状態は極めて近かそうです。
 若者が便利に使っているのはコミュニケーションが取りやすいことも一因だと思います。極めて語意が広く、本来の「危ない」「あやしい」という意味から、「驚きだ」「おもしろい」「カッコいい」「かわいい」「おいしい」「感動している」と広範囲に広がっています。したがって、あやしいと思っているA子さんの「これヤバクない」という問いに、カッコいいと思っているB子さんの「うん、ヤバイね」という会話が成立し、とりあえずのコミュニケーションが取れるのです。関係性が円満ならば、会話の中身はどうでもいいという感じです。
 ただ、ビジネスの中でこんな調子なら、たぶんトラブル続きで失敗してしまうでしょう。言葉は複数にネットワークすることで成立しているそうです。例えば「りんご」は、「皮が赤い」「丸い」「甘みがあり美味しい」「アップルパイ」「リンゴジュース」などの連想される言葉のネットワークで認識されているのです。具体的には、発達した前頭葉の中で、神経細胞を連絡させネットワークを形成し、人類は思考力をアップさせてきました。一方、感情は脳幹というところで司っています。可愛い、カッコイイというような感情が前頭葉の言語野とネットワークされて、言葉が発せられる仕組みです。「マジ、ヤバイ」と言っている若者の脳内環境を想像してみましょう。少しヤバくありませんか。