理事長室

「飛べない鳥は堕落した鳥か」

  • 2020.7.6
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 飛べるという機能は、進化上、海から陸に上がる以上に画期的なことです。生存競争を生きぬく面からも強力な武器を手に入れたことを意味します。しかし、現実には逆方向に進化し、飛ぶことをやめた鳥たちがいるのです。
 そもそも、鳥は飛ぶ羽を手に入れるために、前足(手)を無くすという大きな代償を払っています。さらには、空を飛ぶためには常に体重を軽くし、アスリート体型を維持しなければなりません。これは個人の意思というレベルではなく、体の仕組み自体を変えることで実現しています。例えば、栄養を吸収する腸は極端に短いのです。飛行機で大量の燃料を積めない理屈です。摂取した食べ物をすぐに体外にだすため、水分すら十分に回収できず、フンはベチャベチャしています。ちなみに鶏糞発電が効率的なのはエネルギーが高いから、エネルギーを十分に吸収されないまま出されるからだと思います。ボディービルダーは鳥のささみ肉を食べます。脂分がなく筋肉質の体を作るには最適だからです。また、鳥の骨は空洞構造になっています。少しでも体重を軽くするための仕組みです。ミニ四駆大会で子供たちはスピードを上げるために、プラスチックの車体に穴をあけていました。同じ原理です。飛ぶために消費するエネルギーも大きくなります。鳥はいつも腹をすかして、満腹感を味わったことはないのでしょう。養鶏場の鶏は24時間餌を啄ばんでいるイメージです。こんな大きな代償を払って翼を手にしたのに、なぜ飛ぶのをやめてしまったのでしょうか。
 例えば、キューイはづんぐりとした体形で、オーストラリア地域に棲息しています。他の大陸から孤立しており、外敵がいない条件下の生存競争では、飛べないことは大きなハンディではなかったようです。鳥のようにストックが少ない体にとっては、飢餓の方が重大な危機なのでしょう。結局、飛ぶことより脂肪をため込むことを選択しました。ただ、西洋人の定住をきっかけに混ざって入り込んだ中小動物が脅威となって、今では絶滅しかけているようです。

 同じように脂肪で体が膨らんでいるのがペンギンです。南極の極寒の地で生き残るにはあの形体しかなかったのでしょうが、陸上での動きの緩慢さはとても野生動物とは思えません。しかし、旭川動物園で見る姿は別物です。海中を自在に泳ぎ回り、獲物の魚たちを超えるスピードを持つ優秀なハンターに変身します。あえて言うなら。ペンギンは海中を飛べるようにさらに進化を進めた鳥でしょう。
 ダチョウは鳥類最大で、100キロをゆうに超える巨漢です。あの巨体を空中に浮揚させようと思ったら、どれだけの大きな翼が必要か想像もつきません。ただ、地上で生き残れたのは、飛ばなくても生きていける攻撃力と逃げる走力を身につけたからに他なりません。
 家畜化した鶏を別にすれば、こうして生き残ってきた鳥たちを「堕落」という言葉で表現するのは、やはり失礼なことであると思います。与えられた環境の中で必死にもがきながら、生き続けた結果だからです。
 コロナ禍で少し考え方が変化してきました。生物界において強みを増幅させるのが進化だと思っていたのですが、どうもそれだけではない。生存環境が激変して、これまで通りでは生きていけなくなった時、弱みを最小化するような退化もまた、進化の一類型であると思えるようになりました。
 厳しい生存競争を生き残るという意味では、企業の生存競争も同じだと思います。今、人口減少社会を迎えています。過去一度も経験していない環境の変化です。これにコロナ禍が加わりました。どこが着地点なのか。誰も判りません。このような状況でやむを得ず、進化のベクトルを変える企業が出てきても当然ですし、恥ずべきことではありません。その結果として、生き残った企業は立派です。堕落した企業が生き残ることはありません。