理事長室

「肥後碁聖戦」で子供たちが優勝した訳

  • 2020.11.23
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 熊本県内のアマ囲碁界では大きな地殻変動が起こっています。県内大会で最も伝統があるのは熊日が主催する「肥後本因坊戦」と「肥後碁聖戦」ですが、この腕自慢のオジサンたちが参加する肥後本因坊戦で今年8月に優勝したのが國松君という小学六年生でした。さらに驚いたことに、今月、肥後碁聖戦では米田君という中学1年生が優勝、さらに2位、3位も子供たちが独占しました。
 なぜ小中学生が優勝することが出来たか。もちろん本人の努力が一番なのはいうまでもありません。ただ、数年前までは、個人の努力では不可能なことでした。それが可能になったのは二つの理由があります。

 まず、小学生が囲碁を覚える強くなる環境が格段に良くなりました。これはNPO熊本県子ども囲碁普及会の活動が大きいと思います。もともとは囲碁教室の交流試合が発展したものです。囲碁が好きな人が近所の子供に囲碁を教えている小規模な囲碁教室が昔から存在していました。才能のある子供はすぐに強くなりますが、教室内で無敵になり、まさに井の中の蛙状態になると、そこで棋力の向上が止まってしまいます。そこで、各教室が集まって交流会をやろうではないかという話になりました。もちろん手間や若干の経費はかかりますので、通常は長続きしないのですが、馬鹿のつく世話好き、囲碁好きを中心にして、NPO団体が立ち上がり、広くボランティアを集めるような共助体制を構築することに成功しました。
 現在、熊本県では年に数回県内の交流戦が実施されています。これが各教室の起爆剤になったのは言うまでもありません。昨日まで同じ棋力だった隣の子が、強くなって段級位が上がっていく姿は魅力的に映ったに違いありません。「僕だって出来ないわけがない。」本当にそうなんです。やれば出来たんです。今回それを証明しました。
 もう一つ。革命的に変わった出来事があります。AI囲碁です。4年前、ちょうど熊本地震で揺れていた頃、囲碁界でも激震が起こりました。当時世界最強だった韓国のイチェンホ九段とAI囲碁が番碁する企画がありましたが、まだ、無理だろう。という大方の予想を裏切りAIが横綱相撲で圧勝しました。それ以来、AI流が本流になり、これまで定石だった打ち方は大きく変わりました。将棋界では最年少記録を塗り替えている藤井二冠が話題になっていますが、囲碁界でも10代の若手が躍動しています。背景にあるのはAIに他なりません。これまでの常識がひっくり返り、それを素早く受け入れる若い頭脳が天下を取っています。
 熊本で起こっている現象もこの動きに沿っています。東京に比べ、熊本のような地方は囲碁が上達する環境としては非常に劣っています。これまで子供がいくら頑張っても、先生である地元のアマ高段者レベル以上には上達しませんでした。これを超えるにはプロ棋士に直接指導を受けるしかありません。今活躍している熊本出身のプロ囲碁棋士はいずれも10代で上京してプロ修行をしました。
 しかし現在は、こどもの小遣いで買える廉価なAI囲碁のソフトでもプロ級の実力があります。いつでもどこでも、時間があれば、プロ級の打ち手と対局ができるのです。今、熊本では、若い才能が刺激を受けながら、共鳴しあって、すくすくと育っています。これが二つ目の理由です。
 それにしても子供には無限の可能性があることを改めて思いました。我々大人がやれることは、手取り足取り子供たちを教え込むことではないようです。子供の好奇心を満たしながら、やる気と自信を培う場所を作ってやることです。我が子を思うような気持ちで、子供たちの成長を見守っていたNPOのボランティアの皆さんにとっても、今回の快挙は、これ以上ないエールだったと思います。